インビザライン治療で歯ぎしりや食いしばりが悪化することはある?
インビザライン治療が直接的に歯ぎしりを悪化させるわけではありませんが、治療を始めてから食いしばりが気になるようになったと感じる方は少なくありません。
これは下記の3つの理由が考えられます。
・マウスピースの装着による噛み合わせの変化で、無意識のうちに歯を食いしばる時間が増える
・矯正治療自体がストレスとなり、就寝中の歯ぎしりや食いしばる癖を誘発している
・矯正治療の痛みや違和感によるもの
しかし、適切な対策を講じることで、治療への影響を最小限に抑えることは可能です。
主な対策は、下記のとおりです。
・日中は「上下の歯を接触させない」ことを意識する
・顎周りの筋肉を優しくマッサージする
・睡眠の質を向上させリラックスできる環境を整える
・自分に合ったストレス解消法を見つけて実践する
本記事では、インビザライン治療によって歯ぎしりや食いしばりが悪化する理由と対処法のまとめ、そして歯ぎしりや食いしばりによってマウスピースが壊れてしまった場合の対処法などを解説しています。
インビザライン治療中に食いしばりが気になりやすくなる主な原因
インビザライン治療中に食いしばりが気になりやすくなるのは、単一の原因ではなく、複数の要因が絡み合っている場合がほとんどです。
主な原因として、マウスピース装着による噛み合わせの一時的な変化、治療に対する精神的ストレス、そして歯が動く際の痛みや違和感が挙げられます。
これらの要因が引き金となり、日中や就寝時に無意識に歯を強く噛み締めてしまうことがあります。
それぞれの原因を理解することが、適切な対処への第一歩となります。
マウスピース装着による噛み合わせの変化
インビザラインで使用するマウスピースには約0.5mmの厚みがあるため、装着中は常にその厚みの分だけ奥歯が浮いた状態になり、普段の噛み合わせとは異なります。
この変化に対して、脳が正しい噛み合わせの位置を探ろうとしたり、不安定な状態を安定させようとしたりすることで、無意識に食いしばってしまうことがあります。
特に、新しいマウスピースに交換した直後は、歯を動かす力が強くかかるため違和感が大きく、食いしばりが生じやすい傾向にあります。
通常、この感覚は数日で慣れていきますが、慣れるまでの期間は歯や顎に負担がかかりやすくなります。
無意識のうちに溜め込んでいる精神的ストレス
歯ぎしりや食いしばりを引き起こす最大の原因は、精神的なストレスであると考えられています。
仕事や私生活での緊張、不安、悩みなどが蓄積されると、その発散行動として無意識のうちに食いしばりが現れることがあります。
特に、心身がリラックスすべき夜の睡眠時に、ストレスによる筋肉の過緊張から強く食いしばってしまうケースが多く見られます。
インビザライン治療そのものが「費用が高い」「計画通りに進むか」といった新たなストレス源となり、食いしばりを誘発、あるいは悪化させる一因になることも考えられます。
矯正治療の痛みや違和感によるもの
インビザラインは、新しいマウスピースに交換するたびに歯に矯正力をかけるため、数日間は歯が浮くような感覚や、締め付けられるような痛みを感じることがあります。
この「痛い」という感覚や、口の中に異物があるという違和感が刺激となり、その不快感に耐えようとして無意識に歯を食いしばってしまう反応が起こることがあります。
これは、痛みに対して防御的に筋肉を緊張させる人間の生理的な反応の一種です。
通常、この痛みは2〜3日でおさまりますが、その期間は特に食いしばりが強くなる傾向があるため注意が必要です。
要注意!食いしばりがインビザライン治療に及ぼす4つの悪影響
強い食いしばりは、インビザライン治療の進行を妨げるだけでなく、口腔内や身体に様々な悪影響を及ぼす可能性があります。
マウスピースの破損や治療期間の延長といった直接的な問題に加え、歯や顎関節へのダメージも懸念されます。
また、食いしばりによって顔の筋肉である咬筋が過度に発達すると、エラが張って見えるなど、美容面での問題につながることもあるため注意が必要です。
ここでは、具体的な4つの悪影響について解説します。
強い力でマウスピース(アライナー)が割れたり変形したりする
人が無意識に食いしばる際にかかる力は、自身の体重以上になることもあり、非常に強力です。
インビザラインのマウスピースは耐久性のある素材で作られていますが、このような想定外の強い力が継続的に加わることで、ひび割れや亀裂、完全な破損につながる恐れがあります。
特に力が集中しやすい奥歯の部分に穴が空いてしまうケースは少なくありません。
マウスピースが破損したり、熱などで変形したりすると、計画通りの矯正力が歯にかからなくなり、治療効果が著しく低下する原因となるため、細やかなチェックが必要です。
歯が計画通りに動かず治療期間が延長される可能性がある
インビザライン治療は、マウスピースによって非常に精密な力を歯に加え、計画通りに少しずつ動かしていくシステムです。
しかし、食いしばりによって矯正力とは逆の方向や、想定外の方向へ強い力がかかると、歯の移動が妨げられてしまうことがあります。
歯を動かそうとする力と、食いしばりによる力が拮抗し、シミュレーション通りに歯が動かなくなるのです。
その結果、マウスピースが歯から浮き上がってフィットしなくなったり、治療計画にズレが生じて作り直しが必要になったりして、治療期間が延長される原因となります。
歯や詰め物自体がすり減ったり欠けたりすることがある
過度な食いしばりは、マウスピースだけでなく、自分自身の歯や過去に治療した詰め物・被せ物にも大きなダメージを与えます。
健康な歯の表面にあるエナメル質が過度にすり減ると、その下にある象牙質が露出し、知覚過敏を引き起こしたり、虫歯になりやすい状態になったりします。
また、セラミックなどの詰め物や被せ物が、強い力によって欠けたり割れたりするリスクも高まります。
歯の根元に力が集中し、歯茎が下がる歯肉退縮や、歯が割れる歯根破折の原因になることもあるため注意が必要です。
顎の痛みや頭痛といった顎関節症につながるリスクがある
持続的な食いしばりは、顎の関節やその周辺の筋肉に常に過剰な負担をかけ続けることになります。
この負担が蓄積すると、口を開け閉めする際にカクカクと音がする、口がスムーズに開かない、顎に痛みを感じるといった顎関節症の症状を引き起こすことがあります。
さらに、顎周りの筋肉の緊張は、こめかみ周辺の側頭筋にも影響を及ぼすため、緊張型頭痛や肩こりの原因となることも少なくありません。
インビザライン治療中にこれらの症状が出た場合は、早めに担当医に相談することが大切です。
食いしばりでマウスピースが破損してしまった場合の対処法
万が一、食いしばりが原因でマウスピースにひびが入ったり、割れてしまったりした場合は、自己判断で対応せず、正しい手順を踏むことが重要です。
矯正治療後の歯並びを維持するリテーナーと同様に、治療中のマウスピースにも歯の位置を保持する役割があります。
破損したからといって装着を中断すると、歯が元の位置に戻ろうとする「後戻り」が生じ、治療計画に遅れが出てしまうため、迅速かつ適切な対応が求められます。
自己判断で使い続けず、まずは担当の歯科医師に連絡する
マウスピースにひびや割れ、穴などの破損を発見した場合、「まだ使えるだろう」と自己判断で装着を続けることは絶対に避けてください。
破損したマウスピースでは計画通りの矯正力がかからず、治療効果が得られないばかりか、予期せぬ方向に歯が動いてしまうリスクがあります。
また、破損部分の鋭利な断面で口の中の粘膜を傷つけてしまう危険性もあります。
まずは速やかにかかりつけの歯科医院に電話で連絡し、どのマウスピースが、どのように破損したのかを具体的に伝え、その後の対応について必ず指示を仰ぐようにしてください。
歯科医師の指示があるまで一つ前のマウスピースを装着して後戻りを防ぐ
破損したマウスピースが使えない場合、新しいものが届くまでの間、何も装着せずに過ごすと歯が後戻りを起こす可能性があります。
これを防ぐため、歯科医師から一つ前に使用していたマウスピースを装着しておくよう指示されることが一般的です。
一つ前のマウスピースを装着することで、現在の歯の位置を維持し、治療の遅れを最小限に食い止めることができます。
ただし、これも自己判断で行うのではなく、必ず歯科医師に破損を報告し、指示を受けてから実行してください。
歯の移動状況によっては、一つ前のマウスピースが適合しないケースもあるためです。
破損したマウスピースは捨てずに保管しておく
破損したマウスピースは、決して自分で捨てずに、必ず保管しておくようにしてください。
そして、歯科医院を受診する際に持参します。
歯科医師が破損した実物を見ることで、破損の程度や原因を正確に把握することができます。
どの部分に強い力がかかっているのかを分析することは、今後の食いしばり対策を考えたり、治療計画を微調整したりする上で非常に重要な情報となります。
また、破損がごく軽微な場合は、歯科医師がその場で修理して応急的に使用できるようになる可能性もゼロではありません。
今日からできる!インビザライン中の食いしばりを和らげるセルフケア方法
インビザライン治療中の食いしばりに対しては、歯科医院での専門的な対策と並行して、日常生活で実践できるセルフケアを取り入れることが非常に効果的です。
重要なのは、無意識に行っている癖にまず気づき、それを意識的にコントロールすることです。
筋肉の緊張を緩和するマッサージや、食いしばりの根本原因であるストレスを管理する工夫など、今日から始められる対策は多くあります。
自分に合った方法を見つけ、継続的に行うことで、歯や顎への負担を大きく軽減させることが可能です。
日中は「上下の歯を接触させない」ことを意識して過ごす
本来、リラックスしている状態では、上下の歯列の間には1〜3mm程度の隙間(安静空隙)があり、接触していません。
しかし、パソコン作業中や家事など、何かに集中している時に無意識に上下の歯を接触させてしまう癖(TCH:歯列接触癖)がある人は少なくありません。
この癖を改善する第一歩は、それに気づくことです。
パソコンのモニターや壁など、普段よく目にする場所に「歯を離す」と書いた付箋を貼っておきましょう。
付箋が目に入るたびに、食いしばっていないかセルフチェックし、歯が触れていたら力を抜いて離す、という行動を繰り返すことで、癖を改善していくことができます。
こわばった顎周りの筋肉を指で優しくマッサージする
食いしばりの癖があると、顎を動かす筋肉、特に咬筋や側頭筋が常に緊張し、硬くこわばってしまいます。
この筋肉の緊張を和らげるために、指の腹を使ったセルフマッサージが有効です。
咬筋や側頭筋に指を当て、「痛気持ちいい」と感じるくらいの優しい力で、ゆっくりと円を描くようにほぐしましょう。
強い力でゴシゴシこするのは逆効果になることもあるので注意が必要です。
血行が良くなっている入浴中や入浴後に行うと、よりリラックス効果が高まります。
睡眠の質を向上させリラックスできる環境を整える
夜間の歯ぎしりや食いしばりは、眠りが浅いレム睡眠中に起こりやすいとされています。
そのため、睡眠の質を高めて深く眠れる環境を整えることが、症状の緩和につながります。
就寝前の1〜2時間は、スマートフォンやテレビなどのブルーライトを避け、脳を興奮させないようにしましょう。
ぬるめのお湯にゆっくり浸かる、リラックス効果のあるアロマを焚く、静かな音楽を聴くなど、自分なりの入眠儀式を見つけるのがおすすめです。
また、枕の高さやマットレスの硬さなど、体に合った寝具を選ぶことも、睡眠中の無駄な力みをなくす上で重要です。
自分に合ったストレス解消法を見つけて実践する
食いしばりの最も大きな原因はストレスであるため、根本的な対策としてはストレスを上手に管理し、溜め込まないことが不可欠です。
日常生活からストレスを完全になくすことは困難ですが、自分に合ったストレス解消法を見つけてこまめに発散させることが大切になります。
ウォーキングなどの軽い運動で体を動かす、趣味や好きなことに没頭する時間を作る、信頼できる友人や家族と話すなど、自分が心からリフレッシュできると感じる方法を実践しましょう。
ストレスの原因から一時的に離れ、心と体をリラックスさせることが、無意識下の筋肉の緊張を解きほぐします。
そもそも歯ぎしりや食いしばりの癖があってもインビザラインは可能?
「歯ぎしりや食いしばりの癖が強いけれど、インビザライン治療はできるのだろうか」と不安に思う方は多いかもしれません。
結論から言うと、多くの場合で治療は可能です。
しかし、癖の程度によっては治療計画に特別な配慮が必要になったり、リスクが高まったりするため、治療を開始する前の精密な検査と診断が非常に重要になります。
癖があることを隠さずに歯科医師に伝え、リスクや対策について十分に相談した上で治療に進むことが成功の鍵となります。
基本的には治療可能だが、開始前に歯科医師の精密な診断が不可欠
歯ぎしりや食いしばりの自覚がある場合でも、インビザライン治療を受けられるケースがほとんどです。
ただし、治療開始前には、口腔内スキャナーによる歯型の採取やレントゲン撮影といった精密検査を行い、歯や顎の状態を詳細に把握する必要があります。
歯科医師は、食いしばりが歯の動きに与える影響や、マウスピースの破損リスクを評価した上で、治療計画を立案します。
例えば、歯を抜く必要がある抜歯症例か、歯を抜く必要がない非抜歯症例かによっても治療の進め方が変わります。
カウンセリングの際に、ご自身の癖について正直に申告し、歯科医師の診断を仰ぐことが大切です。
症状が重い場合はナイトガードの併用など特別な対策が必要になることも
食いしばりの症状が非常に強く、通常のマウスピースでは破損のリスクが極めて高いと診断された場合には、特別な対策が講じられることがあります。
その一つが、就寝時にインビザラインのマウスピースの上から、さらに「ナイトガード」という歯ぎしり防止用の厚いマウスピースを重ねて装着する方法です。
これにより、インビザラインのマウスピースを保護し、歯や顎にかかる過剰な負担を軽減します。
また、歯科医院によっては、咬筋の働きを弱めるボツリヌス治療(ボトックス注射)を併用することを提案される場合もあります。
どのような対策が必要かは個々の症状によるため、担当の歯科医師とよく相談してください。
インビザラインと食いしばりに関するよくある質問
インビザライン治療と食いしばりの関係について、患者様から寄せられることの多い質問とその回答をまとめました。
マウスピースが破損した場合の費用負担の問題や、マウスピースを密着させるために使うチューイーの影響、そして矯正治療によって食いしばり癖そのものが改善するのかといった、気になる点について解説します。
疑問や不安を解消し、安心して治療に取り組むための一助としてください。
食いしばりでマウスピースが壊れたら追加費用はかかりますか?
費用は歯科医院の契約内容によって異なります。
治療費に一定回数までの再作成費用が含まれている場合が多いですが、保証の期間や回数には上限が設けられていることがほとんどです。
度重なる破損や自己都合による紛失は、追加費用が発生する可能性が高いため、契約時に破損時の規定を必ず確認しておきましょう。
チューイーを噛むことで食いしばりの癖が悪化しませんか?
正しく使用すれば、悪化する可能性は低いです。
チューイーはマウスピース全体を数分間均等に噛み、歯に密着させることが目的です。
ガムのように長時間、強い力で噛み続けると、顎の筋肉を疲れさせ、食いしばりの癖を助長する恐れがあります。決められた時間と方法を守って使用することが大切です。
インビザライン矯正を進めれば、食いしばりの癖自体も治りますか?
改善する可能性はありますが、必ず治るとは断言できません。
噛み合わせの悪さが食いしばりの一因であった場合、矯正治療で噛み合わせが整うことで症状が緩和されるケースはあります。
しかし、ストレスが主な原因である場合、矯正治療だけでは根本的な解決にはならず、癖が残ることも少なくありません。
まとめ
インビザライン治療中に生じる食いしばりは、マウスピース装着による一時的な違和感や、治療に伴うストレスなどが主な原因です。
しかし、この癖を放置すると、マウスピースの破損、治療期間の延長、さらには顎関節症といった様々なトラブルを引き起こすリスクがあります。
万が一マウスピースが破損した際は、自己判断で使い続けず、速やかに担当の歯科医師に連絡することが何よりも重要です。
また、日中から歯を接触させない意識を持つ、マッサージを行うなどのセルフケアも症状緩和に有効です。
目立つ装置が不要なインビザライン治療を成功に導くためには、歯科医師と連携し、食いしばりという問題に適切に対処していくことが不可欠です。
記事監修 │ 名古屋イースト歯科・矯正歯科 歯科医 原田正守

- ■略歴
-
- ・歯学博士 2007年取得
- ・愛知学院大学大学院歯学研究科卒業
- ・愛知学院大学歯学部非常勤講師
- ■資格・研修
-
- ・インビザライン認定医
- ・日本顎関節学会専門医
- ・ジャパンオーラルヘルス学会 認定医・代議員
